SSブログ

スカルラッティの楽譜 [楽譜]

D.スカルラッティの作品の自筆譜は現在、まったく残されていない。
その為、前から、研究家が残された出版譜や誰かの手による手稿譜にあたり、自分の考えで番号をつけ、現代譜を出版してきた。

その為に、ロンゴ氏による番号がLongo(=L.)、カークパトリック氏の番号はK.で表され、番号付けも異なる。

今は、K で表される番号付けが一般的になっているが、彼の楽譜はあまりに現代譜の記譜法になり過ぎている箇所も多く、譜面から視覚的に読み取る部分がきれいにそぎ落とされてしまっている、という欠点がある。
それに対して、現在、イタリアのフェディーニ女史によるD.スカルラッティ研究に基づく楽譜「ソナタ批判校訂版」が、リコルディ社より1978年より出版を重ねているが、最終段階に入ったこの出版が1995年からピタリと止まってしまっているのである。

何故であろうか?

この疑問は、先日のバイアーノ氏がファディーニ女史の愛弟子であることも分かって、教室に見えたときに、聞いた事で、はっきりした。

すでに、次号の印刷に回す予定の「校訂楽譜」はリコルディ社に渡っているそうである。しかし、リコルディ社はドイツ(?)のどこかの会社との合併が行われ、その際にその渡してあった印刷するはずの楽譜の原本を、紛失してしまったらしい。信じられないことである。
さらに、その後のりコルディ側の対処もなっていなくて、「なくしてしまったので、また出してください」的な軽いことを女史に伝えたそうで、女史が怒ったのは無理もない。
その為、賠償問題などもあって大変だったらしいが、もうすぐ、解決する様子。そうすれば、再度、もとの楽譜をファディーニ女史も再執筆する運びになるそうです。

それにしてもヒドイ話。
この巻は、難しい作品(研究して、定義づけていくには)を多く含んでいたそうで、再度これに取り掛かるのは大変な作業を要するそうです。しかも、ストップしてから10年以上がすぎ、その間に、この女史はすでに大学の仕事も退官して10年以上がたっている、というような年齢に達しています。

ファディーニ女史が元気に最後までこの仕事を成し遂げることを願うばかりです。


nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

調律 [楽譜]

チェンバロは、かなり弦の張力が弱い為、良く狂う。
また、楽器全体が主に木でできているために、湿気や温度によって、かなり影響を受ける。

その為、チェンバロ奏者は、こまめに自分で調律や調整を行うことになる。

一回のコンサートではリハーサルを入れて、少なくとも3回の調律をする。
一人での練習時には時間と狂いを天秤に賭け、我慢できるなら前日のまま練習をすることもあるが、生徒さんがいらした時は、そういうわけにもいかず調律する。また、他の楽器とのアンサンブル練習では、休憩の度にチェックをするようになっている。

こう考えるとチェンバロを始めて25年以上、私はこの調律という物をどのくらいの数やったんだろう…とふと思う。

そして、この調律というものには様々な考え方があり、一筋縄ではいかないものである。

ピアノという楽器が生まれ、調による違いや、調そのものもそれ程、こだわらなくなってきた19世紀20世紀では、平均律というやり方が一般的だ。これは12個の音を均等に割り振ったもの。という事は均等ではない調律法がその前にはたくさん存在していたのである。

ドーソという5度という音程が、一番美しいのは純正、つまりうねりがまったく聞こえない状態の時です。

しかし、平均律の5度はその純正の響きから2セント(対数)狭くした音程となっている。この2セントずつ12の音をせまくして、出来上がった調律法は実際の美しい5度の音程で作った12の音との差は2×12で24セントというずれがある事になる。しかし、オクターブで考えるとこの24セント多いのはだめなのだ。その為この24セントをどこの音から減らしていくか、が様々な音律(調律法)を生んだ原因になった、困った数値、興味深い数値であるわけだ。

調律法は時計のように12の印のついたサークルで、説明されたり、表されたりする。

続きを読む


nice!(3)  コメント(8) 
共通テーマ:音楽

フロベルガー [楽譜]

楽譜の話<其の2>
 フロベルガーという作曲家をご存知ですか?
この人は、ゲルマン人で今のウィーンにあったハプスブルグ家にかわいがられていた音楽家です。1616年生まれ。この頃は神聖ローマ帝国を治めていた事もあって、彼はイタリア・ローマ、それも時の人フレスコバルディの元に留学、そればかりか、フランスにも勉強に派遣されました。なんと幸せな事でしょう。バロックはイタリアで生まれ、フランスと17世紀はその勢力を2分していました。その両国に勉強に行けたのです。
その為に大変、派遣してくれた、時の君主に大変感謝していた事でしょう。その君主(フェルナンド4世)が亡くなった時に創った「哀悼」の曲の最後の部分は天に召される様が上行の音階で、そしてその最後の音が雲の中に入っていく「絵」が楽譜に描かれています。フロベルガーの組曲第7番のラメントです。
 
 ただの音階に意味があることを示す、すばらしい曲です。
   でも、天国に昇れたか否かは、演奏で決まります・・・。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

複雑な感情 [楽譜]

チェンバロは16世紀~18世紀の音楽を主に弾くのですが、時代が前になればなる程、その入手が困難になります。でも、歴史的に大変なことがあった為に、幸運にも残された楽譜があります。

そんな楽譜の話<其の1>
 イギリス、エリザベス女王治世の時代、イギリスはその前の王が離婚したいが為に、離婚が禁じられているカトリックからプロテスタントよりのイギリス国教会に改宗。カトリック教徒は迫害されていたのですが、カトリック教徒ですばらいい音楽愛好家であったトゥレジアン氏も、牢獄に(といっても楽器が持ち込めるような部屋)に幽閉されていました。そこで、彼はその当時の楽譜を集めては、または友人に持ってきてもらっては、膨大な数の作品を一冊の楽譜帳に写譜しました。それが、彼の死後フィッツウィリアム博物館に保管されていたために「The Fitzwilliam Virginal Book」と呼ばれる楽譜です。(その前は、彼を幽閉した時の女王の名を冠した「エリザベス女王のヴァージナルブック」と呼ばれていた!)今は電話帳のような厚さの楽譜2冊で出版されていて簡単に手に入ります。作成したトゥレジアン氏には大変な事でしたが、その為に、重要なすばらしい作品を見ることが出来るのです。
トゥレジアン氏は最後までそこに幽閉されていたようですが、途中からは坐骨神経痛に悩まされていて嘆願書を書いたと残されています。急に寒くなるこの季節にはいつもこのトゥレジアン氏を思い出し、おもわず、この楽譜に手を合わせたくなるのです。不運なトゥレジアン氏。幸運な私たち。複雑な感情がそこに生まれます。そういう事はきっと知れば沢山あるのでしょう。
バード、ブル、ファーナビー等、イギリスの巨匠等の作品が、また、アムステルダムのスウェリンク、イタリアのピッキの作品も含まれ、当時イギリスの音楽事情を垣間見ることも出来ます。

ちょっと重い話でごめんなさい。重苦しい秋雨にちょっと頭痛も感じる朝ですね。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。